※単行本1~2巻ネタバレ注意
週刊少年ジャンプに連載されている【魔男のイチ】という漫画をご存知でしょうか。

表紙だけで分かる華やかさ。これだけでもう表紙買いができると思います。
世界観は魔法ファンタジー。最近だと珍しいくらいの正統派です。通常の絵からバトルシーンの迫力まで、大変細かく、煌びやかに描かれているので、絵で気になったらぜひ読みましょう。
題名にもある通り、この作品の真骨頂は読後感にあります。
下の方で詳しく語っていますが、終わりの爽快感と、ほっと息をつけるような安堵……そして、次章へのわくわく感!
展開、漫画の構成、キャラクター達……どれを取っても安心して読み進められる作品ですので、怖がらず読んでみてください。
この記事は大変長いものなので、読む気のない方は、せめて最後のまとめと少年ジャンプ+の3話だけでも見ていってください。
ストーリー
この世界において魔法とは生き物である。
そして困難な試練を乗り越え、魔法を習得するハンターたちを人は「魔女」と呼ぶ。
ある日、辺境の山奥で恐るべき王の魔法(キング・ウロロ)と最強の魔女が激闘を繰り広げていた。
しかしそこへ、場違いな一人の少年が乱入する。
彼の名はイチ。
魔女とも魔法とも縁の無い山暮らしの狩人が世界の常識をひっくり返す!
魔法ハンティングファンタジー開幕!
「魔男のイチ1 裏表紙のStoryより」
魔男のイチについて
一時期、週刊少年ジャンプと週刊少年チャンピオンの両方の表紙を同一の作者が飾ったとして話題になっていたと思います。
この魔男のイチは、魔入りました!入間くんの作者・西修先生が原作の作品となります。
また、作画担当の宇佐崎しろ先生は、素晴らしい画力と色彩を持つ有名なイラストレーターです。
この強力なタッグによる作品ということもあり、連載前から魔男のイチは注目されていたでしょう。
作品の大きな要素として「魔女」と「魔男」があると思います。
魔女はご存知の通り、魔法を使う女性。魔男は魔法を使う男性ということになるのですが……この作品の世界には、魔女しかいません。魔法を使うための魔力が、女性にしか宿らないからです。
つまり、魔男など存在しない。
そんな世界の常識をひっくり返し、魔法の試練を乗り越え、習得してしまったのが主人公イチ。世界初の男の魔法使い、更には王の魔法(キング・ウロロ)を手にしてしまったことで、物語は動き出しました。
魔法が使えないのではなく、魔法が使えるからこそ特異な主人公。いつかのジャンプで連載されていた魔法漫画たちとは全く違う特性を持った主人公であることが窺えるでしょう。
しかし、主人公イチの最大の特異性は「魔法を使える」ことではありません。
主人公イチ「死対死」
『魔男のイチ』という題名を覚えれば、いやでも主人公の名前を覚えてしまう、大変分かりやすく親切なネーミングでしょう。
アンケート至上主義の激戦区が繰り広げられるジャンプにおいて、主人公の名前を覚えてもらうのはその実難しい。だからこそ、単純明快でタイトルにも名前を入れる戦法は、理にかなっています。
そんな主人公イチ。彼はキング・ウロロを習得し、世界初の男の魔法使い──魔男(まだん)になるのですが、キャラクターにおいて重要なのは、そこではありません。
「死対死(し つい し)」。イチの信念です。生きるために狩人を始め、いつしか狩りそのものが生き甲斐となったイチは、常に狩りを求め生きています。
獣も魔法も狩りたい、狩り合いたい。敵意を向けられて成立する狩りへの思いこそが、イチをイチたらしめる特異性です。
その一方で、彼は善良。無闇に嬲り殺すような残虐な真似は決して許さず、誰かが困っていれば迷わず助けに行き、空だって駆けます。
そんな、狩人としての恐ろしささえ覚える異質さと、善良な青年らしい優しさや、魔法への好奇心を覗かせるあどけなさ。
どれもこれもイチという青年の魅力なのです。
魔法を狩る魔男、まるで彼のために生まれた職業ですね。
ちなみに、殺気を向けられると反射で相手を狩ろうとするので、彼の背後につくは危険です。
超天才みんな大好きデスカラスちゃん

黄色の表紙の女性がデスカラスです。
語るまでもありません、漫画を読めば彼女の魅力は十全に理解できます。
ただ、デスカラスの最高の活躍場が、まさに6月に発売される3巻に詰まっているので、これを期に3巻全て購入し、デスカラスの魅力を食らっていただきたいところですね。
簡単に彼女の説明をすると、世界最強の魔女です。間違いなく、揺るぎなく、人類最強の魔法使いです。イチとは擬似的な師弟関係にあります。いっそ、魔法使いとしての常識や戦闘方法を教えてくれる、お目付け役の方が正しいかもしれません。
お茶目で軽い性格と、最強を名乗る魔女としての責務と強さを持つ姿を見れば、つい惹かれてしまうでしょう。
西修先生の魅せ方
魔男のイチの素晴らしい点は、漫画そのものの魅せ方です。絵に関しては表紙の段階で伝わると思うので、ここでは「漫画の構成力」を素人なりに力説します。
魔男のイチ(魔入りました!入間くんもだが)は単行本での終わりの引きが良い。
単純に、続きが気になる終わり方をされると、続刊が楽しみになりますよね。それを単行本ごとに設置してくれるのです。
例えば、魔男のイチの2巻ではウロロも関わりを拒否するような『大ボス』が現れ、今までにない規模のおぞましい攻撃してきます。そして、イチが反撃をしてフィニッシュ!
その攻撃が当たったのか、敵はどんな状況になるのかは次巻のお楽しみ。
つまり、展開を盛り上げ、読者の感情のボルテージを上げるのが西先生の作品の特徴であり、魔男のイチの構成力の高さでもあります。
また、このような「続きが気になる終わり方」だけでなく、その章の幕引きとしてスッキリとした読後感を与えてくれる、どこか息をつけるような終わり方も西先生は得意です。
波乱万丈の、たくさんの説明と展開が詰まった1巻の終わりは、イチが魔法に魅了され、魔法を面白いと思えるようになり──自ら「魔男のイチだ!」と名乗って次巻へ続く。
最高潮まで盛り上がった展開を、きっちりその巻で畳んで大団円へ導いてくれるのは、安心感さえ覚えました。
暗い展開、辛い展開で終わるのが苦手なあなたへ、まさにオススメな作家さんだと思います。
週刊誌慣れしている……と言えばいいのか、魔男のイチにはたびたび「あらすじ」が本編で出てきます。
これもまた、構成力の高さの一つでしょう。
週刊誌を追うと分かりますが、章の始まり、ストーリーの始まりをきっちり覚えて読み続けるのは難しいです。読み返せば分かるのですが、読み返すのは手間。
そんな中、魔男のイチでは物語の間に登場人物達によるあらすじを描いてくれます。
いわゆる「内容の振り返り」があることで、読者も混乱することなく、今週の話を読むことができるのです。
一方で話が地続きの単行本では、あまり必要のない演出でもあります。もしかしたら最初はくどいと思うかもしれませんが、何回か出てくるのでぶっちゃけ慣れます。大丈夫です。
そしてこのあらすじの素晴らしい点は、使いどころ。
週刊誌で表紙やカラーをゲットしたとき(=注目が集まりやすいとき)に、分かりやすくストーリーと世界観を伝えられるようあらすじを入れてくるため、新規読者の関心が引かれやすくなっています。
週刊誌を追っていても「あれ、どんな話だったっけ?」を引き起こさないようにする構成には、感心するばかりです。
まとめ
大変長くなりました。ようやく終わりますよ。
魔男のイチという漫画は、とにかく「読みやすい」に尽きると思います。
覚えやすい名前、爽快感のある読後感、不快感が極端に少ないストーリーとキャラクター達、大ゴマを多用した迫力のある絵。
ダークで辛い話に食傷気味な方には、胸を張って、オススメできる作品です!
6月に発売される最新刊を含め、まだ3巻しかありませんので、ぜひこの機会にお手に取ってもらえると、私としても嬉しいです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
【魔男のイチ】をどうぞ覚えていってください!